乳酸・パンプアップ・疲労感などのメカニズムについて考える

この記事では「乳酸」がどのようにして作られるのか、そして運動後に起こる「疲労感」はどのようにして生まれるのかについて、私なりにまとめています。ご興味のある方は下記「続きを読む」よりどうぞ。

(記事作成日時:2019-06-02、最終更新日時:2019-12-05)

★当記事の目次

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運動後に溜まる乳酸とパンプアップ

筋肉内にはブドウ糖から合成される「グリコーゲン」を蓄える事ができます。特にグリコーゲンは短時間の内に大きな筋力を発揮する「無酸素運動」において爆発的に消費され、その反応の結果として「乳酸」が作られます。乳酸は「酸」とついている通り「酸性」であり、筋肉及びその周囲の血管内に蓄積すると周囲が酸性に偏ります。しかし人間の体には「どちらか一方に偏った時、それを正常に戻そうとする機能(恒常性)」があり、酸性に偏るとどうにかしてそれを薄め、元の状態に戻そうとします。すると筋肉の周囲に血液及び水分が集まり、これによって筋肉が張ります。そのように筋肉が張った状態の事を俗に「パンプアップ(あくまで一時的なもの)」と呼びます。

そうして運動によって乳酸が大量に作られた時、それをきっかけにして成長ホルモンの分泌を促されるという事が言われています。つまりそのため乳酸を敢えて作るようにして運動を行う事、及び敢えてパンプアップさせるように運動を行う事が、筋肥大の効率向上に繋がる可能性がある訳です。もちろん頻度は考える必要はありますが、時には高重量を扱うようなトレーニング、あるいはインターバルトレーニングのような全力に近い運動を行うと良いでしょう。

ただし乳酸はずっとその場に留まっている訳ではありません。乳酸は血液の循環に伴って肝臓に送られ、肝臓内でブドウ糖の再合成に利用されます。特に無酸素運動を行ったり、あるいは糖質制限を行って糖が不足した際、そうして乳酸をブドウ糖に変換し、血糖値を高め、エネルギーを補おうとします。これを「糖新生」と言います。乳酸と聞くと疲労物質というイメージが強いですが、糖新生が起こって乳酸が分解されても疲労感は残ります。

つまり多くのグリコーゲンを消費していれば、乳酸の量や筋肉痛の強さには関係なく、筋肉は動かしづらくなります。そのため乳酸=疲労とは必ずしも言えません。ただし少なくともグリコーゲンを補充する事ができれば、スムーズな疲労回復が可能になります。疲労回復にはまずグリコーゲンの元となる糖を摂取しましょう。


ちなみにどのような軽度な運動であっても、運動を行っている間はエネルギー代謝が活性化され、その運動を終えると安静時の代謝に戻ります。一方、乳酸が溜まるほどの高強度のトレーニングを行った場合、その運動を行っている間の代謝が上がるのはもちろんの事、実はその運動を終えた後、1時間程度の間、代謝が上がった状態が続くと言われています。これを「アフターバーンエフェクト」などと呼ぶ事があります。これを利用し、例えば高強度のインターバルトレーニング(HIITなど)を行った後に、別のトレーニングを行う事で、後に行ったトレーニングの効果を上げる事ができます。




疲労回復とグリコーゲンの補充

筋肉内に蓄えておいたグリコーゲンは、全力での運動では僅か数十秒(33秒程度)しか持ちません。そのような数十秒に及ぶ全力での運動を短時間で何度も繰り返した場合、グリコーゲンは一気に消費され、枯渇し、それを完全に回復させるためには2〜3日程度かかる事があります。当然その間はグリコーゲンの補充に努める必要があるでしょう。一方、グリコーゲンは消費後から補充が始まり、運動後数時間の間、最も合成が促されると言われています。つまり運動後(直後は避ける)にグリコーゲンを補充、すなわち糖を補給する事も重要になります。


尚、プロの野球選手のように1年を通して試合がある場合、毎日グリコーゲンを使い果たしてしまっては、1年パフォーマンスが持ちません。そのため練習あるいは試合では「グリコーゲンをできるだけ消費しないような体の使い方」をし、1日の疲労をできるだけ少なく済ませ、その疲労をできるだけ次の日に持ち越さないという事が重要になります。もちろん例えグリコーゲンを消費したとしても、できるだけ素早く、できるだけ効率良く回復させる「術」をあらかじめ知っておく事も重要です。

ただし疲労を回復させるために決まった方法はなく、プロの選手でも独自の方法を行っている人がたくさんいます。基本となるのは糖を摂取する(吸収の良い餅がオススメ)、糖の代謝を促すような栄養素を摂取する(ビタミンB群:ウナギ・豚肉・各種レバー・ナッツ、クエン酸:柑橘系果物、アリシン:ニンニク、マグネシウム:大豆・ナッツ)、チートデイを利用する(1週間に1度、食事の8割が炭水化物となるような日を設け、普段摂取しているエネルギーの倍を摂取)、休養を取り運動の強度を下げる、十分な睡眠を取る(ただし太陽のリズムに合わせる)、敢えて有酸素運動を行って筋肉への血流を促す(乳酸、リン酸、アデノシンなどを流して分散させ、材料は逆に筋肉へ送る。ただし軽め)、サウナに入る(ただし水分・ミネラルは補給)、風呂に入る(長湯は厳禁)、短時間で温熱と冷却を繰り返す(体の一部分あるいは全身。ただし心臓への負担に注意)、マッサージをする、ストレッチをする(静的・動的両方)、体を振動させる、単純に好きな事・楽しい事あるいは新しい事をする(敢えて心身を動かす)・・・などが挙げられます。




クレアチンリン酸と運動直後の疲労感

そのようにグリコーゲンを利用した運動は数十秒しか持ちませんが、それよりも更に短時間の無酸素運動、例えば7〜8秒程度の間に全力で走るような場合、筋肉内に蓄えておいたグリコーゲンが利用されるよりも前に、まず「クレアチンリン酸」がエネルギーとして利用されます。これを「ATP-CP系」と言います。この場合のエネルギー利用は、グリコーゲンの補充と比べて非常に速攻性があり、クレアチンリン酸を消費しても早くて数分、遅くても数時間程度で回復すると言われています(ただしその元になるエネルギーは必要であり、それが切れれば合成はスムーズにできなくなる)。

一方、そんなクレアチンリン酸ですが、分解される過程で「リン酸」を外し、そのリン酸を受け渡しする事でエネルギーを運搬しています。しかしこのリン酸、実はミネラルの一種であるカルシウムと結合しやすい性質を持っています。特にカルシウムは神経伝達に関与し、筋肉の収縮を制御する役割があるので、そのカルシウムがリン酸と結合する事で、筋肉の収縮がスムーズにできなくなる事があります。実はこれも疲労感と大きく関係しています。

またリン酸も「酸」とついています。つまり酸性なので蓄積すると筋肉の細胞が酸性に偏ります。これを薄めようとして血液が集まってくるので、これもパンプアップにもなります。大きくパンプアップすると可動域が狭まり、パフォーマンスが低下します。「疲労」と聞くとやはり前述した「乳酸」をイメージしますが、最近では、運動後の疲労感は主にこのリン酸の作用によってもたらされるという説があります。よって激しい運動後は、敢えて血流を促してリン酸を流したり、カルシウムとマグネシウムを多めに摂取すると良いかもしれません。


この他、脳では運動中や運動後にセロトニンの分泌量が増えます。セロトニンと聞くと良いイメージがあり、確かに適度な分泌では心身を活性化させてくれるのですが、一時的にでも大量に増えると、これも疲労感に繋がるという事が言われています。心身活性化が過度に行われるからです。またこのセロトニンは必須アミノ酸の一種であるトリプトファンから作られますが、運動中に利用する事が望ましい「BCAA」と競合しています。このため運動中にBCAAを摂取する事で、脳内へのトリプトファンの供給を抑え、疲労感を軽減する事ができます。BCAAは俗に集中力アップなどと言われますが、それにはこの事が一つの理由になっています。




アデノシン三リン酸とバーンアウト

グリコーゲンやクレアチンリン酸からは「アデノシン三リン酸(ATP)」が作られます。またATPは糖を分解する解糖系、あるいは糖や脂肪酸を分解するクエン酸回路などでも得られます。筋肉のエネルギーと言えば糖や脂肪のイメージですが、筋肉を動かすエネルギーとして実際に使われているのはこのATPの方です。

そんなATP、利用する際にはやはり結合しているリン酸を受け渡しする事でエネルギーを運搬するのですが、その際、リン酸が外れる事でアデノシンという物質ができます。実はこのアデノシンも疲労物質の一つとされており、特にアデノシンが脳内の受容器に結合する事では、睡眠への誘導が行われるという事が言われています。疲れて眠くなるのはこの事が一つの理由になっています。

特にアデノシンが筋肉に蓄積する事では、周囲の神経を刺激すると言われています。これによって筋肉痛(筋肉痛は筋肉の痛みではなく筋膜の痛みとされる。原因は完全には解明されていない)を引き起こしたり、あるいは運動後に筋肉が焼け付くような感覚(バーンあるいはバーンアウト)が起こると言われています。疲労感にはそれらも大きく関係していると思われます。




睡魔と戦うには・・・?

コーヒーや抹茶・玉露などに多く含まれているカフェインには、前述したアデノシンが結合する脳内の受容器をブロックする作用があります。これによって覚醒作用がもたらされると言われています。またカフェインには交感神経を刺激し、アドレナリンの分泌を促す作用もあるので、それによって興奮作用も得られます。このため野球に限らずスポーツ選手では、練習前や試合前に意識的に摂取している人もいるようです(サプリメントで利用する場合、過剰摂取により下痢や頭痛などが起こる事もあるので注意)。

一方、お酒に含まれるアルコールには、脳内でアデノシン受容体をブロックしているヒスタミンを阻害し、アデノシンの濃度を高める作用があると言われています。それによってリラックス効果が得られますが、逆に強く睡眠への誘導が行われます。頭に回るほど大量にお酒を飲むと眠くなるのはこのためです。何故お酒を飲んで車を運転してはいけないのかもこれによって説明できます。アルコールは疲労そのものをなくす訳ではありませんが、一応、メカニズム的には精神的な疲労感を軽減してくれる作用があると思われます。


ちなみにアデノシンをブロックし、覚醒作用をもたらすヒスタミンは満腹感にも関与していると言われており、脳内のヒスタミンが増えると食欲が抑制されます。アルコールはそのようにヒスタミンを抑制するので、実は食欲を増進させる作用も得られる訳です。ただしアルコールの代謝能力は生まれつきのものです。飲む習慣ができると、次第に飲む量も増えていきますが、それは単に鈍感になっているだけです。数年数十年と飲み続けた後で禁酒をしても、臓器へのダメージの蓄積はなくならないと言われています(「程々」「適度」と言っている人ほど量が多い。デメリットも大きい事から習慣化する必要はない)。

また皮膚炎や花粉症などにもこのヒスタミンが関与しています。そのためヒスタミンを抑えるような鼻炎薬やアレルギー薬を飲むと、脳内のヒスタミンにも影響を与えてしまい、受容器にアデノシンが結合しやすくなって眠くなる事があります。特にアルコールと一緒に飲むとその作用が強く表れるため大変危険です。







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