ピッチャーの肩を守るための球数制限は必要か否か

この記事では「球数制限」について私なりにまとめています。ご興味のある方は下記「続きを読む」よりどうぞ。
(記事作成日時:2013-07-07、更新日時:2019-04-09)

野球7

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メジャーリーグの球数制限の意味

メジャーリーグの先発ピッチャーでは、点を取られているか否かに関わらず、だいたい100球を目安に投手交代が行われます。そのため100球前後の球数を投げていて、次の回に自分に打席が回る場合にはすぐに代打を出され、次の回から別のピッチャーに代わります。もちろんノーヒットノーランや完全試合の可能性がある場合など、ピッチングの内容によっては100球を超えても代えない事もありますが、大抵の場合、この「100球」という数字が一つの目安になっています。尚、これはルールで決まっている訳ではなく、あくまで目安としてそうなっているだけです。

この球数制限が生まれた背景には「肩は消耗品」という考え方が影響しています。かつては若い頃にたくさんの試合に登板し、たくさん球数を投げた事によって、年齢を重ねていった時に球速が落ちたり、怪我をしたりなど、自分が本来持っているピッチングができなくなる選手が数多くいました。そのためこの球数制限は、肩や肘の怪我を最低限予防する目的はもちろんの事、野球人生をできるだけ伸ばし、長く活躍してもらうという目的があるようです。

尚、例え点を取られていなくても、球数が多くなる事では、勝利投手の権利を得る前(5イニング目、あるいは5イニング目よりも前)に交代をさせられます。日本では「勝ち星」という成績を非常に重要視しており、点さえ取られていなければ、球数が多くてもそのまま投げ続ける事が多いです。しかしメジャーリーグではピッチャーの肩を守る球数の方を重要視しているので、リリーフピッチャーの準備ができ次第、すぐに交代させられます。特に試合の勝敗はピッチャーだけの責任ではありません。日本では味方の援護点が出るまで待つという事もありますが、メジャーリーグではその前に交代します。これには「先発」としての役割を明確化させるという目的もあるようです。

一方、この球数制限によっては「勝利投手の権利」を得る難易度は高くなったため、現在のメジャーリーグでは「できるだけ球数を抑えるようなピッチング」が重要視されています。特に元々メジャーリーグのボールは縫い目の山が大きく、回転をかけた時の変化量が大きいので、よりバッターの手元でボールを動かし、打たせて捕るためのピッチング技術が発展しています。例えば三振を奪うためには最低3球必要ですが、フライやゴロであればたった1球でアウト取る事ができます。その分、肩や肘への負担あるいは疲労を最小限に抑える事ができる上、長いイニングを投げる事ができるので、リリーフピッチャーの負担も軽減されます。その意味でも打たせて捕る事は効率が良いのです。

しかし私の個人的な意見としては、メジャーリーグでは1年間の試合数が多い上、中4日(4日休みを入れて再び登板する)で登板する事が多いため、結果的にはあまり変わらないような気もしないでもないです。実際、球数制限を課していても怪我をする選手もいますし、これが正しいかどうかは正直分かりません。例えば先天的に筋肉、靭帯、腱などの組織が柔らかい人もいるのですが、それをあらかじめ調べる事ができるのであれば、それを元にして選手ごとに球数を決めた方が良いと私は思います。


日本のプロ野球における球数制限の必要性

日本のプロ野球においては、メジャーリーグでは存在する「100球」という目安が存在しません。

特に日本の場合、「先発は完投・完封をする」という考え方が非常に強い上、「勝利投手」という成績を重要視しているため、序盤に大量失点、あるいは連続四死球でもしない限り、100球を超えたとしても最低5イニングまでは投げ続ける事が多いです。尚、日本ではメジャーリーグのような投手層の厚さはないので、クローザーは別として、同じリリーフピッチャーが何試合も連続で登板する事が多いです。そのためリリーフピッチャーへの負担を軽減するためにも、先発にできるだけ長いイニングを投げてもらうという事も関係しているようです。

また先発ピッチャーの登板間隔も大きく関係しています。日本では中6日空く事も多く、休養を十分?に取ってから次の登板に臨む事ができるとされています。このため球数制限を設けなくても良いという事のようです。とは言っても、完投・完封をするような試合では120球を超える事もあり、中6日空いているとは言え、毎試合完投していれば肘や肩への負担は相当なはずです。その登板間隔だけで肘や肩の疲労を完全に取り去る事ができるのか・・・というと疑問が残ります。実際、若い頃は良くても、年齢を重ねた後で球速が落ちたり、変化が小さくなったり、怪我を何度もしたりという選手はたくさん例があるため、長期的に考えると、日本でも球数制限を設けるべきだと個人的には思います。

ちなみに有名な選手の名前を挙げると、伊藤智仁選手、斉藤和巳選手、山口鉄也選手、浅尾拓也選手、藤川球児選手などがそうです。前の2人は先発ピッチャーですが、ルーズショルダー(肩関節不安定症)でした。全盛期は圧倒的なピッチングを発揮したものの、その期間は非常に短く、怪我によって選手生命を絶たれています。また後ろの3人の選手はリリーフピッチャーなのですが、1年に70試合前後も登板し、それを数年に渡って続けた結果、肘や肩に怪我をしたり、後年に球速が落ちたり、変化球の変化が悪くなったりしています。尚、あの松坂大輔選手も、私から見れば、登板過多及び怪我による球速の低下が見られます。


日本の高校野球における球数制限の必要性

日本のプロ野球ではリリーフピッチャーは別として、さすがに日本と言えども、先発ピッチャーが何試合も連続で登板する事はありません。しかし高校野球やそれより下の野球では、「エース」と呼ばれるピッチャーが何試合も連続で投げる事が非常に多いです。すなわち高校野球では、プロでも行っていないような過酷な事を行っている訳です。これに関しては明確に改善が必要だと私は思います。

有名な例を挙げていきます。まずは済美高校の安楽智大投手。彼は高卒でプロ入りしていますが、高校時代には最速157km/hを記録する超高校級のピッチャーでした。そんな彼は2013年春の甲子園で、延長13回232球完投という非常に過酷な試合を最後まで一人で投げ抜きました。またその大会での全試合の球数は772球だったそうですが、優勝を逃したとの事で、これは結果論ですが、彼の起用方法は正しかったのか疑問が残ります。特に、当時この球数は国内だけでなく、海外からも大きな批判を浴びており、「正気の沙汰ではない球数」「日本の野球界は何故あれほどの逸材を大事にしないのか」など非常に厳しい口調で論じられています。

続いて早稲田実業の斎藤佑樹投手。彼は大学を卒業後にプロ入りしていますが、2006年夏の甲子園で、延長15回178球完投、更に引き分け再試合で118球完投。結局その大会での全試合の球数は948球(過去から現在までで歴代一位の記録という事から異常な事が分かる)にまで達しました。結果として早稲田実業の初優勝に貢献したものの、その後、彼はプロで目立った成績が出せずにいます。一方、対戦相手だった駒大苫小牧の田中将大投手は高卒でプロ入りした後、現在はメジャーリーグで活躍し、比較的安定した成績を収めています。

続いて横浜高校の松坂大輔投手。彼は高卒でプロ入りしていますが、1998年の夏の甲子園において、準々決勝で延長17回250球完投、一方、翌々日の決勝ではノーヒットノーランを達成しています。そうして結果的には優勝していますが、その大会での全試合の球数は776球でした。尚、彼はプロ入り後、メジャーリーグでも活躍し、その後、再び日本球界に復帰しています。特にメジャーリーグ移籍後の2年目では18勝という素晴らしい成績でしたが、その後肩や肘を度々怪我しており、その活躍はごく短期間だけでした。また日本球界復帰後も度々肩を怪我している上、後年は球速の低下が著しいです。彼の投球スタイル上、若い頃は奪三振が多く、プロでもかなりの球数を投げています。これを年齢によるものと片付けてしまうのは私はどうかと思います。

ここで言える事は、高校野球でたくさんの球数を投げた選手の中には、プロで活躍している選手もいるという事です。日本の野球界の問題はそこにあって、つまり酷使によってたくさんの選手が潰されてきたとしても、実際に田中将大投手のようにプロで活躍している人はたくさんいるという理由から、「あの舞台で潰れるような選手は所詮その程度の実力」「これは甲子園では伝統みたいなもの=この過酷に耐えてこそプロになれる(甲子園はプロの登竜門など)」と、酷使を正当化するような考え方があるのです。

実際、高校野球では「優秀だ」とされている指導者の多くが、何試合も連続で同じピッチャーを登板させるような使い方をしています。確かに他に実力のあるピッチャーがいない場合、最も優秀な能力を持つピッチャーが続けて投げた方が、勝つ可能性は高くなると思います。しかしそれは「選手を育成する」とは全く違うのではないでしょうか。指導者は選手を導くのが役割で、それは選手が自分の手を離れても同じはずです。高校球児の中には高校だけで野球を終える人もいますが、大学以降も野球を続ける人の方が多く、自らを犠牲にして何かを得るという「自虐的な考え方」は、短期的に見ればメリットがあっても、長期的に見れば実際にはデメリットだらけです。そうした「選手の将来を長い目で見る事ができる指導者」が増えない限り、野球界のピラミッドの底辺は広がっていかないでしょう。


幼少期の球数制限の必要性

中学生や小学生では特に関節が未発達で、酷使すると高校生やプロの選手以上に怪我をしやすいです。野球肩や野球肘などは高校生あるいはプロの選手でも起こるものですが、特に野球肘に関しては12歳前後が最も起こりやすいとも言われており、野球をしている子どもであれば常に付き纏う大きな問題です。

もし高校生に上がる前に肘や肩を怪我してしまうと本当に悲惨です。その頃はまだ自分のフォームが確立していない子も多いので、そんな時に怪我をしてしまうと、自分が気付かぬ内に、怪我をした所を庇うような効率の悪いフォームになってしまいます。それによって球速が伸びなくなるのはもちろんの事、次第に全力投球をする事自体が怖くなり、それによって野球に対する情熱も失われてしまう事もあります。選手がそうならないよう、指導者が管理してあげる必要があると思います。

例えば小学生で、投げ込みの練習あるいは試合などで全力投球を行う場合、1日50球程度までに制限すると良いと思われます。中学生の場合には1日70球程度、そして高校生では1日100球程度(それをプロまで続ける)という形で、少しずつ球数を増やしていくようにします。もちろん連投をさせない事(数日間隔を空ける)や、投げる前のウォーミングアップ、投げた後のクールダウンやアイシングをしっかり行う事も重要です。そして肩や肘への負担を最小限に抑えるフォームを習得する事の他、普段の食事や睡眠の取り方、筋力トレーニング、ストレッチ、更にはストレスコントロール、体調管理、危機管理なども改善していく必要があるでしょう。スポーツ指導者ならばそれらを全て指導できるのが理想です(当然親も)。




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