そもそもジャイロボールとは?どういうボール?

この記事では「そもそもジャイロボールとはどういうボールなのか」について私なりにまとめています。ご興味のある方は下記「続きを読む」よりどうぞ。
(記事作成日時:2012-09-01、更新日時:2019-03-19)

★当記事の目次

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そもそもジャイロボールとは?

ジャイロボールは読んで字の如く「ジャイロ回転」したボールの事です。
ジャイロ回転とは、ボールの回転軸が進行方向を向いている回転の事、すなわち回転軸がバッター側から見ればバッター側に、ピッチャー側から見ればピッチャー側へ向いていて、その回転軸が地面と平行となっている回転の事を言います。例えるならピストルの弾やラグビーボールの回転が分かりやすいと思います。

通常、回転軸は上、下、右、左などを向いているはずで、回転軸がバッターやピッチャーから見える事は殆どありません。例えあったとしても、横回転や縦回転のボールの回転軸がズレた場合だけで、プロでも意識的にそのような回転軸で投げている人はいないと思われます。すなわち誰も意識的に投げた事がない、見た事がないような変化をするボール、それこそがジャイロボールなのです。

尚、例外的にいわゆる「縦のスライダー(縦スラ)」がありますが、あれもスライダーの回転軸がズレてジャイロ回転したものです。縦スラは意識的にジャイロ回転を与えている訳ではないので、厳密に言えばジャイロボールではありません。そのように意図せずジャイロ回転をするようなボールというのは他にもあるため、そのような「意図的にジャイロ回転をかけるボール」でなければ、当ブログではジャイロボールとは扱いません。ややこしいですが、その点は注意しましょう。


ジャイロボールとはどのような変化をするボール?

では、実際にジャイロボールがどのような変化をするかを説明します。ジャイロボールと聞くと「浮き上がるような豪速球」というイメージを持っている人も多いかもしれません。これはおそらく野球漫画「メジャー」の影響と思われます。しかし残念ながら本当のジャイロボールは、皆さんの想像するような「浮き上がるような豪速球」や「加速するようなボール」ではありません。実際には『落ちる変化球』になります。

バックスピンストレートは何故落ちないのか?

「何故、投げる人がいないのに分かるのか」と思われるかもしれませんが、これは理論的な話です。

例えば「何故ストレートが落ちないのか」という事を考えた事はあるでしょうか。ボールには回転する方向によって圧力の差が生じます。バックスピンストレートで言えば、ボールを横から見ると、ボールの上部ではボールの回転と進行方向が一致していますが、ボールの下部ではボールの回転と進行方向が一致しておらず、進行方向にボールの回転が逆らった状態になっています。

この時、ボール上部は進行方向から受ける空気(風)を後ろへスムーズに流しますが、ボール下部は空気が後ろへ流れづらくなっています。特に野球のボールには縫い目があり、そのデッパリによる影響を受ける訳です。これによりボールの上部と下部では空気の流れる速度が異なり、ボール上部は高速、下部は低速になります。そうしてボール上部と下部で空気の流れる速度に差が生まれると、ボールの上部と下部で「空気の密度が異なる」という事が起こります。またそのように縫い目があるので、球速や回転量が大きいほどその影響が大きくなり、圧力の差も激しくなります。

実際、バックスピンストレートではボール上部の圧力が下がり、ボール下部の圧力が上がります。このように「空気の流れる速度が増すと圧力が下がる」事を「ベルヌーイの定理」と言いますが、その圧力の差によっては圧力の低い方にボールが引っ張られる事になるので、これによってバックスピンストレートでは上向きの「力」が生まれます。特にそのような垂直方向に働く力に限り「揚力」と言い、バックスピンストレートではそれが生まれる事で、重力に逆らう事ができる訳です。進行方向から受ける空気抵抗があるので、ボールは少しずつ失速しますが、球速が速いほどそれが起こる前にキャッチャーミットに到達します。プロでは江川卓投手、藤川球児投手、岸田護選手のストレートが分かりやすいと思います。


マグヌス力とは?

バックスピンストレートではスピン量が多いほど揚力も大きくなるので、重力に逆らう力も大きくなり、より浮き上がるような変化になります。ただし実際にボールが浮き上がるためには最低でも160km/h前後の球速が必要と言われており、単にスピン量が多いだけでは浮き上がる事はありません。バッターが浮き上がったように感じるのは、自分の予想よりもボールが落ちない事で得られる感覚的なものが大きいです。特に高いリリースポイントから放たれた、スピン量の多いストレートが、高いコースに投げ込まれる時、バッターはそのような感覚が得られる事が多いです。

一方、回転はバックスピンだけではありません。それとは反対のトップスピンや真横に回転する横回転などもあり、実はそれらの回転でも、同じように圧力の差による変化が起こります。特に進行方向に対する回転の方向によって、力のかかる方向が変わる事を「マグヌス効果(マグヌス力)」と言います。

このマグヌス力は前述したバックスピンであればそのように上向きに働きますが、それとは逆のトップスピンであれば下向きにマグヌス力が働きます。これによりボールが下方向へ釣られて落下していきます(これは重力による落下ではない)。一方、横回転の場合、ボールを上から見た時、反時計回りに回転していれば左向きに、時計回りに回転していれば右向きにマグヌス力が働きます。これによりボールは左方向あるいは右方向へ釣られてスライドしていきます。これも前述のように進行方向に対するボールの回転により、ボールの上下で圧力に差が生まれ、圧力の低い方向へボールが引っ張られていく事によるものです。

尚、実際には「重力」があります。バックスピンストレートも重力による影響を受けますが、揚力があるので下方向への変化は小さくなります。一方、揚力の生まれない回転では重力に逆らう事はできないので、基本的にどのボールでも下方向への変化があります。つまり横回転も単に横に変化する訳ではなく下へも変化するのです。ただしトップスピンが加われば下方向への変化は更に大きくなり、代わりに横方向への変化は小さくなります。そのように変化量はそれぞれ異なります。


ではジャイロボールでの変化は?

ではジャイロボールではどうなのかというと、ジャイロボールでは前述のように回転軸と進行方向が一致しているため、前述したような圧力の差が生まれず、マグヌス力も生まれません。これにより当然バックスピンのように重力に逆らう事はできませんし、トップスピンのように下方向へ変化する事もなくなります。もちろん横回転でもないので横方向へ変化する事もありません。すなわちジャイロボールは「重力による影響を受けて落下するボール」になります。

ただし回転軸が進行方向と一致している事では、前面から受ける空気をそのまま後ろへ流す事ができます。これによりバックスピンストレートよりも空気抵抗が大きく減るため「初速と収束の差が小さくなる」という事が起こります。前述のようにバックスピンストレートでも、空気抵抗による減速は起こっていますが、ジャイロボールではそれがかなり小さくなるため、落ちる変化をしているにも関わらず、バッターはイメージとの不一致によって「ノビ」を感じる事になります。


リリースポイントや投げ込むコースによって変化が異なる

前述を踏まえるとジャイロボールは単に「落ちるボール」「伸びるボール」になるだけですが、実際にはかなり立体的な変化になります。何故ならボールが落下していく際、地面方向からの空気抵抗を受ける事になるからです。時計回りのジャイロボールを正面から見ると、下に向かって落下していく場合、ボールの左側では空気がスムーズに流れますが、右側では流れづらくなります。これにより圧力の差が生まれ、ボールが落下していく際には圧力の低い左側にボールが釣られます。すなわち左向きにマグヌス力が働き、ボールが左へと変化していきます。逆に反時計回りのジャイロボールでは落下していく際には右へと変化していきます。

これにより落下量が大きいほど横の変化が大きくなるので、例えばリリースポイントが高い位置から投げられた、時計回りのジャイロボールでは、落ちていく際に大きく左へとスライドしていき、実際にはスライダーのような変化になります。また投げ込むコースが低いほど落差も大きくなるので、横への変化も更に大きくなります。おそらくこれを利用したのがいわゆる「縦スラ」で、縦スラはそのように落ちていく時に横へと変化するため、よりバッターの手元で変化しているように感じさせる事ができます。

一方、サイドスローやインステップのフォームのように、ピッチャープレートより遠くからボールを投げる場合、今度は横方向からの空気抵抗を受ける事になります。例えばインステップの右投手が時計回りのジャイロボールを右打者のアウトコースへ投げ込む場合、左へ進む際にボールの上と下で圧力の差ができ、圧力の低い上方向にボールが釣られます。このため小さいながらも揚力が生まれ、マウンドのより右側から、より左側のコースへ投げるほど、落ちづらいスライダーになります(右打者からすると、手元で逃げながら伸びる)。

ちなみにリリースポイントの低いアンダースローでは落差が小さくて済むので、そのような横の変化も小さくなります。特に高いコースに投げ込む場合には更に落下量が小さくなり、より浮き上がるような変化になります。ただし上方向からの空気抵抗は受ける事になるので、高いコースに投げ込むと僅かに減速します。また上昇していく時には横方向への変化も生まれますが、他の投法とは違って低い位置から高い位置に投げるので逆の変化になります。このため右投手から右打者へ時計回りのジャイロボールをインハイに投げる場合、僅かですが右へと変化し、バッターからは自分向かって浮き上がってくるように見えます。逆にアウトハイだと横の変化が小さくなる上に、元々の球速が遅いので、重力による縦の変化も少なくなります。このためアンダースローの投げるアウトハイのジャイロボールは、コントロールミス次第では絶好球になる可能性が高いです。